そもそも難民は犯罪を起こしやすいのか

こんにちは!

世界で難民受け入れに関する議論が尽きない中、国民がまず心配するのは「異文化の人々を受け入れた、そのあと」ではないでしょうか。偏見かもしれないけれど、なかなか口に出しにくいけれど、けれども「難民による犯罪」への不安を抱いている方は少なくないと思います。

今回はその実態について、今現在明らかになっている情報をもとにした記事を紹介します。

難民による事件

みなさんの記憶に新しいのは、ケルンで新年の始まりに起こった暴行事件ではないでしょうか。6月22日までの被害届は1182件で、想定被害者数は1276人に上ると見られており、全被害者のうち約630人は性的暴行を訴えています。

また現在確認されている183人の容疑者の国籍は以下の通りです:
モロッコ、55人。アルジェリア、53人。イラク、22人。シリア、14人。ドイツ、14人。その他または未だ不明、25人。
このうち73人が当時難民庇護申請中。36人が違法移民でした。

このような事件が起こってしまった原因についてはドイツの移民統合政策の不備、イスラムにおける家父長制などが挙げられています。どれも考え得る因子かもしれませんが、どれも未だに明確な根拠はありません。

またこの事件は「難民」と「犯罪」結びつけた、極度に難民受け入れを反対する人々が「望んでいた」事件なのだと、ケルン新聞編集者のHelge Malchowさんは記しています。

難民による犯罪率

結果から言ってしまえば、ドイツ連邦刑事局は「移民による犯罪率はドイツ人よりも低い」という統計結果を発表しています。また今年3月の移民による犯罪件数は同年1月と比較して18%減少しました。

2016年一四半期の移民による犯罪・犯罪未遂は69,000件。そのうち約3分の1は窃盗、次に詐欺。その後に暴力犯罪が約4分の1を占めています。
また本局によれば移民による殺害事件は0件でした。
ちなみに2015年度のドイツ人による犯罪は1,457,172件。非ドイツ国籍保持者の場合911,864件でした。

いまだ高い数値に留まっているのが難民宿泊施設に対する放火などの事件です。2016年一四半期では345件であり、一部の極右勢力による犯行と言えるでしょう。

不法侵入件数をみると2005年から10年で約60,000件増加しており、人口増加による犯罪件数の上昇という事実は否めません。しかしそれが難民受け入れとどれほど密接に関わっているのかというのは未だに明確ではありません。
毎日数千もの難民が入国し、ドイツから他の国へ渡る難民も多くいます。そのなかで実際に何人の難民がドイツ国内にいるのか、というのを正確に把握するのは非常に困難であり、ドイツ政府の一課題となっています。

ドイツにおける犯罪件数の詳細は以下のサイトをご参照ください。
https://www.bka.de/DE/Publikationen/PolizeilicheKriminalstatistik/2015/2015Standardtabellen/pks2015StandardtabellenTatverdaechtigeUebersicht.html

そもそも定義できるのか

例えば日本人は親切だ、ドイツ人が議論好きだと言われるように、喧嘩好きの民族も世界には存在するかもしれません。しかし日本人のなかでも性格は異なりますよね。「この民族はこんな性格だ」と定義するのは一面性をはらんでおり、信憑性に欠けます。人間個人というのは民族や宗教によって一辺倒に定義できない、もっと複雑なものではないでしょうか。

そもそもこのような人種主義的な意見が世界で受け入れられるのか、受け入れられてもよいのか、という疑問があります。例えばドイツ銀行理事会委員のThilo Sarrazinはムスリム移民に対して人種主義的な視点で自書を出版しました。ここで注目すべきなのは、この本が多くの統計と名高い研究者の意見を多く盛込んだ上で論理付けられているという点です。この出版後、2010年に彼は理事会の職を解任されています。過去に負の遺産をもつドイツとして、国の一トップに人種差別的人材を置いてはいけないという判断が下されました。

いま世界では右翼、左翼というよりも「自国主義」が勢力を伸ばしています。自国主義が全ての面に置いて悪いとは言いがたい、けれども国全体として他民族排他性が高まれば、難民は今以上に厳しい状況に置かれるでしょう。

最後まで読んでいただきありがとうございました。
なおアイキャッチ画像はこちらのサイトから引用しています。

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3 件のコメント

  • 2015年度のドイツ人による犯罪は1,457,172件。非ドイツ国籍保持者の場合911,864件でした

    上の数字から見ると、非ドイツ国籍保持者の犯罪「率」のほうが高そうに見えますがどうなんでしょうか?

    • きむらさん

      コメント、ありがとうございます。大変うれしいです。

      まず一つ整理しなければならないのは、「移民」と「非ドイツ国籍保持者」は似ているようで完全には一致しない、という点です。
      移民は、ドイツに移り、居住している者の事、それに対して非ドイツ国籍保持者は、外国人観光客や、(犯罪に関連させて言えば)国際的に犯罪活動をするギャング集団なども含まれています。
      その点この記事では主に「(難民も含む)移民がドイツ人に比べて犯罪を起こしやすいのか」という点にフォーカスを当てている、という点をご理解ください。
      しかしその点をこの記事でははっきりと書き分けていませんね、誤解を生むような書き方をして申し訳ありませんでした。

      それを整理した上で今回は、「(移民だけではなく)外国人がドイツ人に比べ犯罪を起こしやすいのか」との質問と理解しましたので、そちらを説明させていただきます。

      まずは結論から申し上げますと、きむらさんの主張は正しいです。
      ただそこの裏にどのような事情があるのか、という点を見ると必ずしも「外国人がドイツ人に比べて犯罪を行いやすい」とは言えない、ということが分かります。

      それを説明するにあたり、あるドイツの弁護士事務所のwebサイト(url: http://www.strafrecht-wi.de/auslaenderkriminalitaet/)で2014年のデータが一つ見つかりましたので、そちらを紹介させていただきます。

      この事務所が提供しているデータによると、2014年、ドイツ全体の人口は約8,077万人で、その内約820万人が外国籍だと書かれています(ただ犯罪件数にはドイツに居住していない外国人の数も含まれますので、実際の母数はもっと大きいとご理解ください)
      そして、そこで犯罪件数を比べると、10%強しかいないはずの外国籍の人が、ドイツ全体の犯罪件数の28%を占めていると分析結果が出ます。つまり、きむらさんのご指摘通り、実際に「非ドイツ国籍保持者」の犯罪率の方が高い、と言えます。

      しかしだからと言って、「外国籍の人がドイツ人に比べて犯罪を犯しやすい」と言えるのかというと、実際はそう単純に言えるものではありません。

      まずは入国管理法違反や、「外国人でないとできない犯罪」が含まれているためです。
      日本では主に2015年がドイツの「難民危機」の始まりと考えられていますが、2014年にもドイツには363,000人の難民申請者が入国しており、多くは難民申請を出すために「密入国」をしていることになります。これらの件数を引くと、外国籍の人の犯罪率は24%に下がります。

      次に、この事務所が問題点としてあげているのが、「警察は被害届の数を計算しているだけで、その後容疑者が有罪になろうが、無罪となろうが件数として数えている」という点です。なぜこれが問題になるのかというと、実際に警察に被害届を提出する人はドイツ人の方が圧倒的に多く、そのドイツ人は同じドイツ人よりも外国人に対しての偏見が強く、訴えを出しやすいという傾向があるという点です。なので相対的に外国籍の人の犯罪件数が多くなってしまいます。
      さらにはアメリカのいわゆる「黒人問題」ではありませんが、ドイツの警察の中にも偏見が存在し、ドイツ人よりも外国人の方が職質を受ける回数が多く、そこからの検挙率も一般のドイツ人に比べ各段に高い、と言われています。

      最後に挙げられているのは、移民を背景に持つ人々は、社会的底辺層が多い、という点です。
      ジーゲン大学の調査では、ドイツ人であっても、収入が低く、社会的底辺層にいる人々の方が犯罪率は高い、という結果が出ており、それは移民など外国籍の人にも言えます。そしてこの経済格差を取り払い、ドイツ人も移民も同じ社会層にいると仮定した場合の犯罪率を比べると、両者の犯罪率は変わらない、という結果が出ています。

      ここから、「外国籍の人がドイツ人に比べ犯罪を行いやすい訳ではない」という点をご理解いただけたでしょうか。

      最後に難民・移民といったドイツに居住する人々に限定します。
      毎年データを発表しているドイツ連邦刑事局(日本でいう警察庁でしょうか)も、上に挙げたように、データの公平性に「問題がある」と認めており、特に「難民の犯罪」が社会的議論になった今年は、刑事局が6月に発表された「核心的論点」と言われる報告書が大きな注目を集めました。(url: https://goo.gl/zRXSv3)
      そこで刑事局ははっきり、「移民は、ドイツ人に比べ犯罪性は高くない」と述べています。

      私たちがこの記事で言いたいのは、犯罪の件数だけを見て全てを判断するのではなく、その裏にある事実関係や問題点を読み取って、「難民(移民)は犯罪を行いやすい」という感情的な議論ではなく、データの分析に基づいた建設的な議論が必要だ、という事です。

      長い説明となりましたが、ご理解いただければ幸いです。
      他にも疑問、意見等ございましたら、コメントください。

      ありがとうございました。

      • きむらです。ていねいな回答ありがとうございます。
        せっかく回答いただいていたのに、ブラウザがキャッシュから表示していたようでずっと表示されませんでした。久しぶりにのぞいたら、回答いただいていたのでびっくりしました。ありがとうございます。

        1)前回投稿したのは、「難民は犯罪を起こしやすいのか」にひっかかったからです。ある程度、バイアスを持っています。読んでみて(失礼ですが)「率」と「数」がごっちゃになってると思いました。

        2)投稿前に、念のために911,864件が載っている資料を探しました。幸い英文の Police Crime Statistics (https://www.bka.de/SharedDocs/Downloads/EN/Publications/PoliceCrimeStatistics/2015/pks2015_englisch.pdf?__blob=publicationFile&v=2) という資料が見つかりました。
        それをみると犯罪数が (資料のP10)
                  2015年     2014年    (foreigners lawにひっかかったのを除くと)
        ドイツ人     1,457,172    1,532,112    ( 2015年    2014年 )
        非ドイツ人     911,864    617,392     ( 555,820    492,610 )
        (内難民       463,889    179,563)    ( 114,238     59,912 )
        となっていました。

        3)「難民は犯罪を起こしやすいのか」にひっかかったので、対象は「難民の『犯罪率』」で考えてます。
        (「難民」の人たちを卑下するつもりはないのですが、こう書くとそうなってしまうんですね。)
        ドイツの難民在留数は6月現在で180万人(UNHCR)。昨年後半からとくに増えているようです。
        ここから昨年(2015年)の在留数は平均してざっと100万人とすると 
        犯罪率は 114,238/1,000,000=11.4%。  
           (114,238件のうち窃盗は50,088件。犯罪には難民間のも含まれると思います。)
        これでいいでししょうか?『率』にこだわっているので、教えていただけると幸いです。

        4)今回提示していただいた資料、ドイツ語だったので、独⇒英(Google)翻訳して読ませていただきました。犯罪件数が18%減少したというのはこの資料にありました。
        が、「移民は、ドイツ人に比べ犯罪性は高くない」というのがどこにあるのかわかりませんでした。
        すみません、教えてください。

        以上を書こうとしている間にベルリンでテロが起きてしまいました。難民の人たちがより辛い立場にならないか心配です。
        足をひっぱるような投稿で失礼ですが、よろしくお願いします。

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