「難民たちは溺死させておこう。」—EUの政策が招いた悲劇

今、地中海で多くの難民の命が失われています。なぜ彼ら、彼女らは命の保障のない、危険な船旅を選ぶのでしょうか。もっと安全な道はないのだろうか。ただ安全な場所に住みたいと願う人々が、その道中でなぜ命を懸けなければならないのだろうか。その背景にはEUの政策があります。今回は、「密航業者との闘い」を掲げ、難民危機に立ち向かうEUは、いったいどのようにしてこの悲劇を生んでしまったのかを、EUの政策批判という形で紹介します。

 


国連高等難民弁務官事務所(UNHCR)は29日、地中海で25日から27日の間に密航船の転覆事故が相次ぎ、700人以上の難民が死亡した恐れがあると伝えました。

2016年に入って5月31日までで、地中海で死亡した難民は2510人。密航に用いられる船は航海に適しているとは到底言えず、また限界を遙かに超える人数が詰め込まれていることが多く、死のリスクがあることは明白です。それにも関わらず、海を越える人の流れは加速しています。27 日に約37000人と報告されていたイタリアへの上陸難民数は、30日の時点で約47000人。たった3日間で約1万人が海を渡りました。

密航船転覆の瞬間を捉えた動画

EU(欧州連合)とトルコ間で結ばれた難民対策合意が3月20日に施行されて以降、トルコからエーゲ海を渡ってギリシャ入りし、バルカン半島を北上する「バルカンルート」は実質閉鎖されています。EUはこの合意を「密航業者のビジネスモデルを潰すため」とし、これにより欧州難民問題は沈静化するという見方がありました。しかし、その結果リビアから地中海を渡りイタリアを目指すルートが活発化すると見られています。

実際、イタリア沿岸警備隊の二コラ・カルロネ少将は、今後密航業者がシリア難民を北アフリカ経由でイタリアに向かわせるのではないかと発言しています。(The Economist)

なぜ難民は海を渡るのか

どうして難民は命を危険に晒してまで海を渡ろうとするのでしょうか。

答えはシンプルで、彼ら、彼女らはヨーロッパまで飛行機で飛んでいくことがそもそも出来ないから。

さて、ここで突然のクイズです。

なぜ難民は飛行機でヨーロッパへ向かうことが出来ないのでしょうか。

①内戦やテロのせいで、飛行機の運航が十分でないから。

②難民は政府に迫害されている人が多く、パスポートを持っていないから。

③難民の経済状況では航空券なんて買えないから、危険でも海を渡るしかない。

これらは実は、僕が留学先で所属している難民問題に関するゼミで、教授から出された質問とそれに対する学生たちからの発言です。

どれも正しい答えのように見えますが、実はこの中に正解はありません。

①「運航が不十分」説に関してですが、ガッツリ運航してます。格安航空券比較サイトのスカイスキャナーで検索したところ、例えばリビアの首都トリポリからドイツ、フランクフルトまで、直行便はありませんが毎日20から50便くらいの間で運航があります。

②「パスポート不所持」説については、ある程度当てはまる人もいることは事実ですが、パスポートを持っている難民たちが空路を利用しない理由にはなりません。

③「航空券高すぎる」説は、一見的を射ているようですが、実は一番のハズレ。航空券より、密航船の乗船料の方がはるかに高いのです。次の画像をご覧ください。(画像はこちらの動画より転載)

スクリーンショット (6)

緑色が空路と航空券代、青色が密航船ルートで乗船代です。

実際に調べれば分かるのですが、アフリカからヨーロッパへの航空券代って大体こんなものです。画像だとエジプトからローマが320€(約4万円)、エチオピアからストックホルム、レバノンからロンドンが400€(約5万円)程です。①で調べた、リビアからフランクフルトも一番安いので300€(約3万7千円)からありました。

それに対して、密航船の乗船代として難民が密航業者に支払う額は少なくとも1000€(12万円強)。つまり、航空券の2倍から3倍です。さらに多く払うほど安全・快適な船になります。

では一体なぜ彼ら、彼女らは高い額を払ってわざわざ危険な道を行くのでしょうか。ほら、ずっと安くて遥かに安全な飛行機で行こうよ。

実は難民が危険を冒して密航船に乗る理由は、EUがそれ以外の選択肢を不可能にしているから

彼ら、彼女らは、空港へ行くことが出来ます。さらに、チケットを購入することもできます。しかし、彼ら、彼女らが空港のチェックインカウンターから先に進むことはありません。

2001年にEUは加盟国の不法移民対策に関する指令を出しました(EU 2001/51/EC)。その内容は以下の通り。

  • 全ての航空会社・海運会社は、適切な書類(ビザ等)を所持しない人物をEU加盟国に連れてきた場合、その人物を出身国まで送還する費用を負担しなければならない。
  • この方法でEU域内に辿り着いた人物にはジュネーブ条約(難民の定義を定め、調印国に難民への対応を義務付けている)は適用されない。

この指令は、いわば本来国家が直接責任を持つべき国境管理を、民間会社のチェックインカウンターに押し付けているものなのです。また条約によって定められた難民への対応等の責任からも不当に逃れていると言えます。

この政策のため、当然ビザをもたない難民は搭乗が出来ず、危険な密航船以外の選択肢がないのです。その結果、多くの難民が溺れ死ぬというおぞましい悲劇が起っています。

難民申請はEUの加盟国内でのみ可能で、難民がそれ以前にビザを取得することは、一部の例外を除いて不可能。そのため、難民は基本的に密航船でまず不法にEU加盟国に入ることが必要。その後初めて難民申請が出来、申請を待つ間はその国に滞在する権利が与えられる。申請が下りて初めて正式な難民として保護の対象になる。

先日の記事でヨーロッパを目指す難民の過酷な旅についてご紹介しました。

その際、「密航業者を取り締まることや、流入ルートを封鎖することは根本的な解決にはならない」と書きました。

アムステルダム大学のハイン・デ・ハース教授は、論評『Let their people drown: Europe’s self-inflicted migration crisi』で、その点について次のように述べています。

密航斡旋は国境警備に対する反応であり、移民を原因とするものではない。密航業者は、移民が閉鎖されている国境を超えることを支援するサービス業者なのである。

密航業者は法を犯す犯罪者ではあるが、需要があるからビジネスを展開しているに過ぎません。つまり、国境やルートの閉鎖、取締りの強化などで難民のEUへの移動が困難になればなるほど、密航業者への需要は高まり、結果彼らのビジネスを増大させることになるのです。

EUは難民問題への対応で、「密航業者との闘い」というキーワードを頻繁に使っています。しかし、これまで説明してきたように、難民が危険な密航に身を投じる根本的な原因の一つは、EUの政策であることは明らか。また、現状の「密航業者との闘い」を軸とした対応では状況をさらに悪化させる恐れもあります。

難民問題を研究する人々の中には、難民を密航よりも安い空路でEU内に入れることで、経済的効果が期待できると主張する人もいます。

今EUは、密航業者を非難し、それと闘うばかりではなく、自らの政策を振り返り、この危機を本当の意味で乗り越えるために何をすべきなのか、考えるべきだと言えるでしょう。

 


2016年の夏もまだまだ収まりそうにない難民危機。今回は、その根本にある問題を、EUの政策批判という視点から紹介しました。ここに書いた情報はなるべく情報源を示していますが、難民危機が今現在まさに起こっている問題であるため、その全てが正しいとは限りません。僕自身も勉強しながら考えることが沢山あります。この記事を鵜呑みにせず、他のメディアやブログなども参照して自分で考えてみて下さい。

日本のメディアでも連日、地中海での事故を中心に難民危機が取り上げられているようです。いくつか記事を読んだところ、データの正確性に疑問があるものもありましたが、この問題について考えていくのには良い機会だと思いました。

もし家族や友人との間で難民危機が話題になったら、是非このホームページを教えてあげて下さい。私たち「和の手を世界に」は、皆さんが難民危機について詳しく知るための助けになれればと思っています。わからないことや議論したいこと、主張したい意見、もっと詳しく知りたいこと等があれば、BBSContact、コメント、各種SNS(ページの最下部にリンクがあります!)を活用してみて下さい。私たちは皆さんの声を心待ちにしています。

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それではまた!

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