みなさん、スウェーデンと言えば何を思い浮かべますか?IKEAやH&Mなどの有名企業、金髪の美男美女、ムーミン(※本当はフィンランド生まれ!)、そして何より高い幸福度を実現する充実した社会福祉といったところでしょうか。
スウェーデンといえばとにかくポジティブなイメージを持たれる方が多いと思われますが、実は、欧州での生活を目指す難民たちにとっても、その待遇の良さから大変評判がよく、EU諸国の中でも特に難民申請先として選ばれる「約束の地」となっていたのです。
そこで、そんなスウェーデンの難民事情について、わけあって日本・スウェーデン・ギリシャでゆる~く難民支援に関わっているエレナがシリーズでご紹介させていただきたいと思います。
まず第一弾は、受け入れ制度の概要から!
選ばれるには理由がある!「約束の地」スウェーデン
ゆとりある成熟した社会ならではの寛容でオープンな対応
スウェーデンの難民に「なんでわざわざスウェーデンを選んだの?冬は寒くて暗いし、ご飯もまずくて、地理的にも遠いのに。」と聞くと、みんなそろって「難民先として、スウェーデンの評判が一番良かったからだよ!」と答えます。
ようは難民の間での口コミナンバー1なんです!
統計でもその人気ぶりは表れています。たとえば2014年、スウェーデンの難民申請数は約8万人とEU内2位で、1位のドイツの20万人を下回っています。
しかし、実は人口1000人あたりの難民申請者数は8.4人で、2.5人のドイツを大きく上回ってEU内ぶっちぎりトップを爆走するなど、口コミにつられて国の規模の割には多くの庇護希望者が流入してきていることがわかります。
スウェーデンの難民受け入れは今に始まったことではありません。
実はスウェーデン、19世紀末~20世紀初頭にかけて、政治・宗教・経済的理由等で150万人にも上る人々が流出した難民排出国家でした。
しかし、第二次世界大戦で戦禍を免れたことでユダヤ人や周辺国の難民を受け入れたことをきっかけに、その後は難民受け入れ国に転じ、2011年の時点ですでに外国生まれ、もしくは外国生まれの親を持つ人の人口が約20%にものぼる多民族国家に変貌しつつあるのです。(Statistics Sweden)
有名なところでは、サッカーのズラタン・イブラヒモビッチの両親も、実は東欧からの戦争難民です。
2016年6月に若干の制度変更がありましたが、これまではスウェーデンで難民と認められれば永住権が与えられ(!)、家族を呼び寄せることができました。
そして、スウェーデンに到着し、難民申請をすれば、以下のような保障を受けれられるのです!
衣食住の保障はバッチリ!お小遣いから無料の住居、教育に職業斡旋まで
難民申請を行うと、最低限の衣食をカバーするための現金給付を受け取ることができるようになります。
金額は1日70SEK(=約840円)、1か月2100SEK(=約25200円)程度で、政府から支給されるデビッドカードの口座に毎月振り込まれます。
また、メガネやベビーカーといった特別な出費が必要な場合は別途申請可能です。
収入がない場合は、移民局が提供する家具や台所用品備え付けの住居に無料で住むことができます。この場合、場所は選べず、家族連れでなければ同性同士でルームシェアをすることになります。
病気になった場合は、難民の印籠「LMAカード」と呼ばれる身分証明カードを提示すれば、診療代・薬代それぞれ50SEK(=約600円)を負担上限として、格安で医療機関を利用することができます。
難民申請をしてこのLMAカードを持っている間は、難民としてスウェーデンでの身分が保証され、その他にも快適な生活を送るためのさまざまなサービスや割引が受けられるようになるのです。

スウェーデン移民局ウェブサイトより
http://www.migrationsverket.se
就労や語学学習を通じたインテグレーションの支援
スウェーデンでは、難民申請を提出すれば就労が可能になります。
できるだけ早い段階で給付を頼らず自活し、社会に溶け込めるようにするという趣旨で、Job Centerが難民向けに簡単な仕事の紹介をしてくれます。
ある難民の男性は、6月は芝刈りの仕事で5日間働いて2500SEK(=約30000円)稼いだと教えてくれました。※日当は500SEK(=約6000円)
また、難民申請中から18歳未満の子供は無償で地域の学校に通えるなど、様々な教育サポートがあります。
スウェーデンでは、旅行や駐在、大学院レベルでの勉強だけであれば英語だけでも生活できる国ですが、大学学部までの教育は当然スウェーデン語ですし、就職したり、地域コミュニティーに本当に受け入れてもらうにはスウェーデン語が必要です。
そのため、難民に限らず、学生ビザ以外の居住ビザを持つ移民は全員、通称SFI(Swedish for Immigrants)と呼ばれる無料のスウェーデン語学校に通えます。
難民申請中はSFIには通えないのですが、できるだけ早くスウェーデン語を学びたいという難民のニーズに応え、教会や地域の学校などがボランティアでスウェーデン語教室を開いているケースが多く見られます。
ハウツー難民inスウェーデン~わかりやすい難民申請手続き
スウェーデンの移民局のウェブサイト難民向けページは、難民申請手続きを正しく伝えるために21か国語に翻訳されているだけでなく、子供向けの絵本風ページや難民申請ハウツー動画などで、難しい手続きを直感的に誰でもわかるように説明をしてくれています。
ドイツの移民局のサイトや、その他EU諸国の移民局のウェブサイトと比べても、気合の入れ方は半端ではありません。
まとめ

スウェーデンには本当に感謝しています。ここには自由があり、出会う人みんなが優しいし、自然が豊かで美しく、とても平和で、祖国の状況と比べるとまるで天国のようです。一日でも早くスウェーデン語を覚えて仕事を見つけ、自立できるように頑張ります。
上記は、私がスウェーデンで出会った、英語が堪能でデータサイエンティストのシリア人難民(30歳、男性)の言葉です。
少なくとも首都ストックホルムにいる難民たちは、みなスウェーデンに対する感謝の言葉を述べ、語学を学んだりボランティアに参加するなど、一日でも早く社会の一員となるために努力していました。
難民たちが前向きに社会に受け入れられていると感じ、将来へ希望を持てるようにすることは、インテグレーション(受入国社会への統合)を進める上で非常に重要なことだと思います。
私はストックホルムに3年住みましたが、スウェーデン社会は人道的でありつつも非常に合理的で、人々の心にはゆとりがあって外国人にも優しいので、とても快適に暮らせたのを覚えています。
もちろん、2015年の夏以降は難民の急増によるキャパシティー不足からひきしめの方向に舵を切りました。しかし、急激な難民の増加に戸惑う声があがるのは、ある程度は自然な現象でしょう。
それよりも、スウェーデンが戦後、高い税金によって社会保障を充実させたり、移民や難民を多く受け入れ、彼らを人道的に扱い、統合のためにある程度の支出を許容しながらも、順調な経済成長を維持してきた点に注目し、学ぶべきかと思います。
今後は、そんなスウェーデンの強みの秘訣や、スウェーデンの難民受け入れに伴う課題、スウェーデンで暮らす難民の生活に注目した記事を書いていきたいと思いますので、ご期待ください!
(参考)
https://www.theguardian.com/world/datablog/2015/may/11/which-eu-countries-receive-the-most-asylum-seekers
http://www.migrationsverket.se/English/Private-individuals/Protection-and-asylum-in-Sweden.html
https://sweden.se/migration/2015